DIARY 2000年夏


6月6日 プラシボ火山

ゲル状の虚無が背中から入り込んできて、やがて肩からゆっくりと蒸発していく。机に突っ伏して、通り過ぎるのをただじっと待つ。
 ようやく重い腰をあげて病院に行ってみた。これで2度目。5年前に慶応病院でかの小此木啓吾氏に散々されてから足が遠のいたまま、放っといて治るもんでもない。今度のとこは第一印象まずまず。自分に起きていることをうまく説明できるか不安だったけど、大意は汲み取ってもらえたのではないか。お薬をいくつか貰った。やばくなったら飲めと言われたやつは効いてるかも。人間の精神活動なんてたかだかケミカルな現象なんだよ。

ところで僕、不味くて食べられないものってないんですよ。気持ち悪くて食べられないものならあるけど (虫っぽいのとか) 。で、昔から青汁を飲んでみたかったの。そんなに不味いならかかってきなさいよと。ふっかけたら本当にかかってきたんでゴクゴク飲み干してやった。口ほどにもないぜ。そんな日々。

6月12日 Tokyo Shyness Boy's Life

曲名を引用しまくってるこのサイトでも特に出現率が高いのが細野晴臣さんの「東京シャイネスボーイ」。もう勝手に自分のテーマ曲だと思い込んでるんですが、この曲のモデルって鈴木慶一さんなんだってね。「はにかむ」と「Honeycomb」を掛けてるなんて気づかないよ。ってことはこの曲は「火の玉ボーイ」のアンサーソングになるのか。

久しぶりに懐かしい後輩2人と会って、慶一さんのソロライブを見に行った。僕は相変わらず彼女達の会話には入り込めないけど、2人の間が昔とちっとも変わってなくて嬉しかった。読んでるかな。これからもよろしく。
 ふらりとステージに現れた慶一さんがギターかき鳴らして最初に歌ったのは「火の玉ボーイ」でした。ライブレポートちょっと待て。今週もやたらと忙しい。

6月20日 A Day In The Life

友達の結婚式を欠席してしまった。挙式から披露宴から二次会まで全部。みんなびっくりしただろうか。僕はびっくりした。彼には昔っから世話になりっぱなしで今後ともよろしくお願いしたく、またこのたびは心よりお慶び申し上げたい気持ちなのだが、とにかく部屋を出られる状況じゃなかった。レキソタンいっぱい飲んでみたけどやっぱりダメ。
 僕がミニストップの冷しとろろソバを食っていた頃、式場では誰もいないテーブルに黙々とフルコースが運ばれてたんですね。申し訳ない。ご結婚おめでとう。

近頃このサイトが内省モードなのは、自分の精神状態が客観的にみて興味深いからっていうのもある。そういう流れなのかなと思う、日本の個人サイト界の。見知らぬ人々の日記を巡回してると、同業者の間でここんとこ心に関する記述が増えてきてるんですよ。第2次ベビーブーマーは徒党組んだりしないから、みんなギリギリの環境の中で静かに病んでいく。17歳の時代の次に27歳の時代が来るかもしれん。
 ウェブの面白いとこって、一般人の日常の重みがすごい勢いで蓄積されてることだと思います。鼻息あらいバブルサイトやアングラサイトより、健全と不健全の狭間にある平凡な毎日の方が遥かに意味がある。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。

6月21日 シンプルトン市長の家庭の事情

どうでもいいけどこういう活動って契約上どういうことになってるんでしょう。

7月7日 リニューアルをめぐる釈明あれこれ

どこに迷いこんだかって、ここは旧ポヨポヨレコードですよ。

ポヨレコって名前、覚えやすいし一人称としても使えるんで重宝してたんですが、自分の言葉じゃないのがずっとひっかかってたんです。で、思いきってかえちゃった。どうかな。
 フリップサイドっていうのはレコードの裏面のこと。もちろんあの「The Dark Side Of The Moon」のもじりなんですが、Dark Sideなんてルナティックな言葉を持ち出さなくても、ポップスの世界には「B面」という素晴らしい裏文化があるじゃないですか。

遥かドーナツ盤の時代には、A面でヒット曲の仕事をこなして、B面で自分本来の音楽を満足させていたと言います。そんなB面スピリットに敬意を表して。「ソリトンSide-B」なんてテレビ番組もあったね。
 あとはMoonridersの影をひきずってたりとか、Flipper's Guitarとか。おんなじ原風景を持っている人がピクっと反応してくれたらいいなと。

画面左上で怠惰に眠る猫はクリマロと言います。生誕当時は真っ白だったのに、クリマロと名付けたら栗色に成長した。ときどき画面右下に現れて足を投げ出している猫はネモと言います。なんと彼をクリックするとひとつ上の階層に戻れるのだ。使えるヤツだろ。
 MacOS8.6 + Netscape4.7とWindows98 + InternetExplore5.1では動きました。それ以外の環境、CSSはともかくJavaScriptやフレームに対応していないブラウザのことを考えるとゾッとしますが直す気はありません。今後ともひとつよろしくどうぞ。

7月15日 麦刈り人生

先週の土曜日からまるまる1週間寝込んでしまいました。去年の夏休みを取り返して余りある5連休。掃除・洗濯欠かさぬ男なので割と健康的な隠居生活ではあったんだけど、部屋を出れずに食料が枯渇。残るは牛乳とマヨネーズと...酢。酢ねぇ。
 2日間なにも食べずにいたら、冷蔵庫の底から腐った野菜が出てきて始末に困る夢を見た。イマジネーションまで枯渇してる。猫飯が缶タイプだったらマヨネーズかけて喰うんだけど、カリカリ派なのでさすがにちょっと。餓死するかと思った。

TVアニメ史上の傑作「未来少年コナン」を十数年ぶりに観ました。この歳になると主役よりも脇に思い入れ、モンスリーの半生を追うだけでもう1本番組ができそうだ。
 作品を通して執拗なまでに「世代交替」を訴えていることにやっと気がついた。ブレーク前の宮崎駿、思うところいろいろあったんだろう。子供の頃にはラオが死ぬ必然性がわからなかったけど、新大陸に向かうにはダイスの世代がぎりぎりOKライン、それより上の方々にはハイハーバーで昔ながらの生活を続けるか、インダストリアで死んで頂くほかになかったのね。

西暦2028年、生きてりゃ56歳かあ...。ハイハーバーで麦でも刈りますか。

7月20日 ネチケットって本当に必要なのか

シチズンとしてのエチケットと理念上どう違うのか200字以内で説明せよ。僕にはさっぱりわからない。

WWWってリンクフリーが原則だと思うんですが、リンク許可メールって慣習を考えだした人はちょっとずるい。「大変申し訳ないがリンクさせてください」なんて低く出といて、内心は自分のサイトを見て! 願わくばそっちからもリンクして! と思っているに決まってるんです。少なくとも僕は思っている。メールを見てやってきたみなさんこんにちは。騙されてますよ!

今頃「未来少年コナン」にはまってる人は世界中で3人くらいしかいない思います。やっと最終回まで観た。なんだ、モンスリーの少女時代についてちゃんと触れてるじゃないですか。それと、自ら死を選んだのはラオじゃなくて委員会の爺さん達ですね。ラオは船の中でわかりやすく病死するんだった。

久しぶりにコナン観て、なんかホッとしちゃった。世の中が松本零士ブームに沸いていた頃、僕はひとりでコナンに夢中だったんです。なんだかんだ言って宮崎駿作品で育ってしまった自分を再確認。仕事してても、例えばin-betweenの加速度の設定とか絶対に宮崎さんの影響受けてる。
 どうせなら誰かみたいに「ガープの世界」とかそういう大人な作品に癒されたかったが、こればっかりはしょうがない。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今回のテーマはオリジナルサウンドトラック「The Million Dollar Hotel」

7月25日 ツアーめがね

朝になるたび眼鏡を探しまわるのは、眼鏡を探している時の僕は絶対に眼鏡をかけていないから。だから眼鏡の置き場所には特に気をつけなくちゃいけない。
 そういう日常生活のノウハウというか、生き延びる上での基本的なスキルというものが自分には欠けていると思った。

7月30日 刷り込み

NHK教育テレビがすごいことになってます。
 中学生向け社会科番組「世の中何でも経済学」をぼんやり眺めてたの。謎の黒猫ネコノミスト博士から「希少性」の原理について調査せよとの指令を受けた主人公の女の子、何を思ったかRock'n Roll AIDSに取材を敢行です。
「ねえおじさん、これとこれ…どっちも"Revolver"なのに
 なんでこんなに値段が違うんですか? 」
「それはねお嬢さん、こっちは初回盤帯付だからレアなんだよ」
「あっなるほどー」
この放送を見た中学生が「希少性」という概念について理解できたか心配。

童謡番組「ハッチポッチステーション」は、ソウルマニアにこそお薦めしたい。幼心に懐かしいあの歌この歌が、いつの間にやらソウルの名曲へとトランスフォーム。踊り狂うパペットの衣装から細かいカット割りまで、Rutlesもかくやのこだわりです。こんなもん子供に見せてどうすんだろうか。

でも僕だって"When I'm Sixty-Four"や"Why Do Fools Fall In Love"を初めて聴いた時、「あっこれポンキッキの歌だ」って思ったもんなあ。「ハッチポッチステーション」を見てるおともだちもいつかは元ネタに気づくかも知れない。"Revolver"を手にしてネコノミスト博士を思い出すかも知れない。いっそのこと"Taxman"を主題歌にしたらどうですかね。

8月4日 ホタテをなめるな

不思議タウン大森山王より、主張する民家です。これ、夜には点灯するんだよ。

8月8日 Lying in bed just like Brian Wilson did

日記と名乗っている以上、近況でも書くか。久しく会っていない友達のためにも。

7月15日に「1週間寝込んだ」って書いたけど、実はそれからも連休記録を更新してます。今は療養中という扱いで、社会制度に甘えてメンテ期間に突入。皆さんの給料から天引きされる保険金が、こういう駄目人間のために使われてるわけです。
 病名は、日本では鈴木慶一さんや高橋幸宏さんがかかったやつ。ロックでしょ。海外だと...さすがにあの人やこの人とは違うと思うけど。今は低空安定飛行中。ただ異様に眠い。寝るのも自己治癒のプロセス、という説を鵜呑みにして、本能のおもむくままに眠る、眠る、眠る。ついこの間まで徹夜続きだったのが嘘みたい。たぶんアシカかフクロネズミ並みに寝てるんじゃないか。

すると夢を見ます。辛い想い出だったり遠い憧れだったり。今さっき見たやつはこう。なぜか「Beautiful Songs」のスタッフをしている僕は、夜中に叩き起こされて飲みに行こうと誘われる。行く先は1970年代の渋谷百軒店です。寛ぐ大御所たちを前に固まる僕らバイトくん。薄暗い店内で飲む酒のうまいこと。そういや慶一さんが「火の玉ボーイ」を作ったのは、ちょうど今の僕の歳なんだよな。

理念なんてスカしたこと言ってる場合じゃない現場で働くこと5年、このまま泥の中で生きることもできるけど、願わくばいま一度。この状況を、錆びついた自分の価値観をアップデートするチャンスにしたいと思う。思うけど眠いのでまた寝る。

8月11日 ライオンはやっぱりねている

前回の補足。フクロネズミは「袋のねずみ」と違う。コアラやカンガルーの仲間、有袋類です。といってもオーストラリアじゃなくて南米に住んでいる。なんかのテレビでよく眠る動物として紹介されてました。違ってたらすいません。

アシカをはじめ海獣類がよく寝てるのは、水族館に行けばすぐわかる。ネコ科もよく寝る。中でも特に睡眠時間が長いのは、The Tokensも指摘している通りライオンなんだそう。1日のうち84%は寝てるんだって。これは今さっき調べたからほんと。

8月15日 小室哲哉さん

「ジャングル」や「オルタナ」などの一発ギャグで僕らを楽しませてくれるコメディアンの小室哲哉さん。彼の最高傑作はなんといっても数年前の日本グランプリ、KEIKOによる君が代斉唱でしょう。
 中国人が海岸沿いに結集していっせーのせで椅子に座ると、日本海に大津波が発生するそうです。君が代斉唱が日本グランプリでよかった。あれがもしオリンピック開会式だったら、全世界の視聴者が一斉にすっ転んで天変地異発生だと思う。

ところが芸人たるもの、あまりビッグになりすぎると突っ込むほうもやり辛くて、ネタが空回りしてしまうもの。一時期のビートたけしさんの低迷がそう。最近の小室さんも「男2女1ユニットのはしりはGlobe」だとか「Never Endは沖縄音階」だとか、大ネタかましてる割にはパッとしません。
 今度の彼のキーワードは「IT」なんだって。久々にビビッドなボケっぷりじゃないですか。ここで巻き返しをはかれるかどうか。「イット」じゃないですよ森総理。僕も昔、国鉄が分割して「国鉄ジュニア」になると思った。

Beach BoysコーナーにBruce Johnstonの新しいコンピレーションを追加しました。

8月20日 おっはー

ピチカートマニアの皆さん今晩は。小西康陽さんの代表作は「慎吾ママのおはロック」ってことでいいでしょうか。そもそも「おっはー」っておはスタの合言葉じゃなかったっけ。
 「だんご三兄弟」の次は「焼肉ヨーデル」に「タコ焼きマンボ」だって。今ごろきっと日本中で「こぶ茶のチャチャチャ」とか「さんま DE サンバ」とかいう企画が進行してるかと思うとげんなりします。大滝栄一さん、来年に向けて「お花見メレンゲ」売り込んでみてはいかがでしょう。イラストはもちろんナイアガラフリークのさくらももこさんで。

クロスレビューRock Crusadersを更新しました。今回のテーマはRobert Wyatt「Nothing Can Stop Us」。これほんとに思い入れのある1枚で、じゃあ4つ星つけろよって感じですが、クオリティ的に4つ星あげたいのは最新作の「Shleep」。「Nothing Can Stop Us」は「Shleep」に至る第一歩として大事なアルバムなのです。
 初期のレビューをちょっとリライトしました。昔のテキスト読み返すのは恥ずかしいよな。でもいま書いてるやつもすぐに恥ずかしくなるのだ。

8月24日 英語はいつも補習クラスでした

結婚式を間近に控えた弟がやってきて、披露宴のBGMを選んでくれという。普段なんの役にも立たないダメ兄としては、またとない威厳の見せどころです。
「こんなのどうよ」「うーん。...これ自殺する人の歌だよ」
「じゃこれ」「...やばい薬をくれとか言ってるよ」
見せどころ終了。

歌詞は大事なんです。でもなに言ってるかは大事じゃないんですね。言葉のリズムが楽しかったりリフレインが楽しかったりとか、そういう聴き方をしてきたんで (細野晴臣)

ロックファン歴十数年の中で最も歌詞カードを熟読した夜、意外な発見がたくさん。John Caleの「Close Watch」って腕時計の歌だと思ってました。なんだラブソングじゃん。でも僕はこの歌がずっと好きだったんだよ。
 あの、このサイトに書いてあることってあんまり信用しない方がいいですよ。

日記にしばしば登場する弟、実は普段めったに顔を合わすことがない。別に仲は悪くないと思うんだけど、彼は爽やかに真っ当な人生を歩んでいるんで接点がないんです。その微妙な距離感がネタとして丁度いい。

8月29日 千鳥足ドルフィン

2ヵ月以上絶っていた酒飲みライフが復活。CRTトークショーで飲んだ1杯のグレープフルーツハイをきっかけに、古い友達を渡り歩いて飲むわ飲むわ。幼馴染みのK.K.、1/2だめポロン、猫友達のマユコさん、因縁のT.N.。ルイ・マルの映画「鬼火」みたいだと思いました。ラストシーンだけは書き換えたいものだ。
 SFCという壮大な実験は、僕たちに肥大したプライドだけを植えつけてくれた。未来からの留学生はさあ、自力で未来に帰ってもらわないと (井下理教授) 。けだし明言。

ほんとのこと知りたいだけなのに、夏休みはもう終わり
 蝉の鳴き声が変わる季節には、日本列島1億3千万のうち数万人がこのフレーズを思い出すんだろう。嘘っぱちの中、千鳥足で旅に出よう。